抜き差しならない社長の事情 【完】


ウィンドウを開けて

「乗って行きませんか?」

ニッコリとそう声を掛けるのは切野社長だ。



助手席にいるのは紫月で、はにかんだ微笑みを浮かべながら、小さく手を振った。



「大丈夫ですよ、彼女の家は近いんでね。

月でも見ながら歩いて行きます」



星ひとつ見えない夜空を見上げた切野社長は、クスッと笑って

お疲れさまでしたと、ウィンドウを閉じた。



走り出す車の中で振り返る紫月に手を振り返し、


相原はいつか切野社長に言った自分の言葉を思い出した。



『やり直せないなら、また始めればいいじゃないですか。

何度だってまた挑戦すればいいんですよ。

 俺たちは生きてるんだから』




「我ながらクサいセリフだな」

小さくそうひとりごち、

トレードマークの無精ひげを撫でながら、相原はクスッと楽しそうに笑った――。







*- fin -*
< 154 / 169 >

この作品をシェア

pagetop