抜き差しならない社長の事情 【完】
こうして声を掛けてくれることはうれしいが……


「専務は社長を送るんじゃ?」


切野社長の右腕である彼とは、実はあまりお近づきにはなりたくない
というのが紫月の本音だった。


「あ、一緒です。社長は最後に送りますからね」


――え!

聞いた途端、踵を返して相原の元に帰りたかったが、

ここまで来てそれはできない。


「そうですか」と精一杯の微笑で答えた。



 最悪……


 
「しかし、こういう席は疲れますね」

「……そうですよね、専務はお客さまのお相手もあるし」


などと話をしながら神田に付いていくと

 !


神田の車と思われる車の横に、切野社長と曄が立っているのが見えた。

「……」


なんでもない、なんでもないと呪文のように心で繰り返し、

紫月は笑顔を顔に貼りつけた。
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