ナイショの恋人は副社長!?
大切な客人なのだということは勤務中にわかってはいたが、具体的に彼らの情報を得てしまうと、優子は圧倒されてしまって思うように対応できない。
(どうしよう! 有名メーカー社長のお孫さんに声を掛けてもらったのに、うまく応えられない! 雰囲気悪くなっちゃう……)
特にヴォルフの表情が固くなったわけではないが、優子は極度のプレッシャーから、悪い思考しか持てずにいた。
そこで俯きかける優子の耳に、緊張を解すような、心地のいい声が入ってくる。
「Ich danke Ihnen, dass Sie sich heute für mich verwenden(本日は、私たちのために時間を割いて頂き、ありがとうございます)」
パッと左を見上げると、にっこりとした優しい横顔の敦志が目に飛び込んできて、肩の力が抜けた。
――それは先刻、移動中にしていた話の続きだ。
敦志に事の経緯を説明された優子は、言いづらそうに視線を落とした。
『あの……でも、私、そこまで完璧にヒアリングできるかどうか』
『大丈夫。英語も話せると仰ってましたし、ドイツ語は私も専攻してたので、ある程度わかるつもりですから。今夜は、私がちゃんとフォローします』
重ねて言われた敦志の言葉に、優子は自分になにか、特別な役割を与えられてるわけではないと知り、多少ホッとする。
その時、眉を八の字に下げて安堵した優子を見た敦志が、頬を緩ませた。
『ですので、なにも心配せずに、私の隣にいてください』
敦志の言葉の意味は、仕事上のことだとはわかっている。
それでも、優子にとっては耳にずっと残る、印象的なものだった。
そして、宣言した言葉に違わず、敦志は行動でそれを証明するように、今、優子の隣に立っていた。