ナイショの恋人は副社長!?
向付がテーブルに並んでる頃には、優子も多少、場の空気に慣れてきた。
上座に座るヴォルフと、その隣のドリスは兄妹(きょうだい)ということを知り、驚く優子にヴォルフがドイツ語で問い掛ける。
「ユウコは、兄弟はいるんですか?」
「え、えぇと……兄弟はいません。私ひとりです」
「へぇ! じゃあ、〝ハコイリムスメ〟ってやつかな?」
「いえ。私、家を出てますし、箱入りってわけじゃ」
優子は、とんでもないとばかりに、手を横に振る。
確かにひとり娘だが、大学にも行って、留学もして、現在ひとり暮らしまでしている。
それは、箱入り娘には当てはまらないだろうと即否定したものの、優子は父親を思い出して動きを止めた。
(お父さんが大事なのは、昔から私じゃないし)
ビールが入っているグラスを遠く見つめ、優子が物思いに耽る。
その様子に気づいたのは、この場でいちばん優子を気に掛けている敦志だったが、声を掛けるまでには至らなかった。
「日本酒って、美味しいんですね。僕、結構好きかも。ユウコもどうぞ」
「あ……私は……」
芹沢にお酌をしてもらうヴォルフが、向かいに座る純一に話し掛けた流れで、再び優子に振った。
日本酒を勧められた優子は、やんわりと断りかける。
しかし、接待という席で、先方から勧められた酒を遠慮するのはどうなのかと考えた。
(何も出来ないんだから、せめて、笑顔で受け入れることくらいしなきゃならないのかもしれない)
実は、優子は酒は飲まないが、乾杯の時にビールを受け取っていた。
それすらもまだ飲み干すことが出来ずにいる優子に、日本酒など無茶な話。それでも、真面目な性格の優子は決心して、差し出された酒を受け入れた。
(誰かが確か、こういうものは一気に喉に流した方がいいって言ってたような……)
誰が言っていたのかも覚えていないような助言を鵜呑みにすると、優子はクイッと一気に酒を呷った。
喉に流れていく酒がただ熱を持っているようで、風味がどうということよりは、その熱さに一瞬顔を顰める。