ナイショの恋人は副社長!?

翌日。

敦志から貰った薬が効いたおかげで、そのまま熱は落ち着いたようだった。
高熱のせいで身体が少し怠いけれど、頭はすっきりとしていた。

優子がいつも通りに出社すると、今本が目を丸くして立ち上がる。

「優子ちゃん! 昨日はびっくりした! 具合が悪い素振りなんて、全然みせなかったんだから! もう大丈夫なの?」
「あ、ご心配とご迷惑おかけしました。もう大丈夫です」
「そう。でも無理しないでね。今日はなるべく私が頑張るから!」
 
優子はぺこりとお辞儀をして笑顔を見せると、今本はガッツポーズでそう答えた。
そして、ふたりが椅子に腰を下ろした時に、受付へとひとりの男性が向かって来る。

「あ、あの人、誰だっけ? 顔はこの間見たのは覚えてるんだけど……」
 
まだその男性が受付から遠くにいる段階で、今本が呟く。
優子は近づいてくる男性の顔を確認し、自分のノートを開いた。

「この間、物流から異動されてきた、池田主任です」
 
ボソッと優子がノートの中を見ながら今本に教えると、『そうだった』と納得したように小さく頷いた。

「おはようございます。池田主任」
「おはよう。もう名前を憶えてくれているんだね。うれしいよ」
 
今本が受付のカウンターに差し掛かる男性に恭しく頭をさげ、挨拶をする。優子も倣って頭を下げた。
すると、名前も一緒に口にしたおかげで、満面の笑みで池田は今本と優子に挨拶を返す。
 
嬉しそうに去って行った池田の背中を見送った今本は、小声で優子に礼を言った。

「ありがと。新しく来た人って、顔は覚えられても、なかなか名前が出て来なくて」
「私もです。だから、そのためのノートなんです」
 
優子は両手でノートを持って、小さくはにかんだ。

(……名前)
 
どちらからともなく再び腰を下ろすと、優子はノートに視線を落として思い出す。


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