ナイショの恋人は副社長!?
 
視線を落としたまま、その場でしばらく立ち尽くす。
しかし、再び顔を上げた敦志の目は諦めている目ではなかった。
 
改めて一歩踏み出した敦志は、迷うことなくある場所へと向かう。
それは、唯一、敦志が知っている優子のアパートだ。
 
敦志はタクシーを捕まえ、アパートへと急ぐ。
信号に捕まるたびに、焦る気持ちから、飛び出して走りたくなる衝動を堪えていた。
 
運転手に無理を言い、限界まで急いでもらってアパートに着いた時には一時間以上経過していた。
 
タクシーを降りるなり、駆け足で優子の部屋へと向かう。
インターホンを二、三度続けて押すと、応答を待ちきれなくて声を発した。

「優子さん! 早乙女です! いませんか!?」
 
敦志の呼び掛けに、何も返事はない。
優子の不在に落胆した敦志は、玄関に背を預けて項垂れた。

(……俺は、どうしてこんなに必死になっているんだろう)
 
ふと、自問自答するように心の中で呟く。
 
理由は探せば、いくつか上がる。
 
自社の社員だからとか、ヴォルフとの接待に同席をお願いしたのは自分だからとか。
けれど、自分を今突き動かしている衝動は、もっと単純なもののような気がする。
 
いつの間にか暗くなった夜空を仰いだ敦志の耳に、近づいてくる足音が微かに聞こえ、顔を戻した。

「……副社長?」


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