花盗人も罪になる
「それってもしかして……」

「ん? 村岡主任。結婚7年目って聞いてたから、簡単におちるかなって思ったんだけどな」

知っていたら全力で止めたのに、よりによって最強の愛妻家を選ぶとは。

どう考えても紫恵は円の勝てる相手ではない。

「それは無理だよ、円……。今回ばかりは相手が悪かったね」

「香織は村岡主任の奥さん知ってるの? 奥さんってそんなにいい女?」

「奥さんは可愛らしくて優しくてすごく素敵な人だよ。村岡主任はそんな奥さんをこれでもかってくらい溺愛してる」

「ふーん……。結婚して何年経ってもそういう人っているんだ」

失恋の痛手はあまりないのか、あれだけ意気込んでいた割に円はあっさりしている。

「村岡主任のことはあきらめたの?」

「あきらめたっていうか……あれだけハッキリ言い切られたら、なんかもう萎えた。他のもっといい男探す」

「うん、それがいいと思う。今度は独身の人にしなよ。奥さんがいるのに付き合おうって言う人なんて、ろくな男じゃないから」

「まぁね。そう考えると村岡主任は既婚者として正しかったわけだ」

円はフォークを動かす手を止めて、少し遠い目をした。

「いいなぁ……。あれだけ愛されてたら、奥さんは幸せだろうね。私も今度は私だけを目一杯愛してくれるいい男、見つけるわ」

「うん、そうだね」

失恋に終わった自分本位な逸樹への恋は、円の中の何かを変えたのかもしれない。




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