花盗人も罪になる
「結婚してからの20年、あの人はいい夫だったし、いいお父さんだったからね。もう若くないんだし、人生に悔いのないように本当に好きな人と過ごさせてあげたいでしょ?」

真理子さんは本当は、今でも夫を愛しているのだと紫恵は思う。

愛しているからこそ、真理子さんは夫の望みを叶えてあげたいのだと。

本当ならばきっと、子供たちが巣立つ日を夫と二人で見届けたかったに違いない。

子供たちが巣立った後は、二人きりで静かに過ごしたいと思っていただろう。

それなのに真理子さんは、愛する夫との離婚を選んだ。

その心の痛みは紫恵には計りしれない。

「あの人は私たちのために本当によく頑張ってくれた。だから、20年分のごほうびね」

そう言って微笑んだ真理子さんの目は、心なしか潤んで見えた。

人を愛するということは、甘さや優しさだけでなく痛みも伴うものなのかもしれない。

紫恵は真理子さんの気持ちを思うとズキズキと胸が痛んで、涙が溢れそうになった。


もし逸樹が同じように別の誰かを選ぶことがあったら、自分は真理子さんのように痛みを隠して笑えるだろうか?

それが逸樹にとって本当に幸せならば、泣いてすがるようなことはしたくない。

せめてありがとうと言って送り出してあげたいと紫恵は思った。



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