花盗人も罪になる
逸樹と別れ一人になると、円は口元に小さく笑みをもらした。

逸樹はどうやら、この作り話を信じているようだ。

自分の演技力もなかなか捨てたものじゃない。

最初は“かもしれない”程度に留めておくのは円の戦略だった。

もう少し心配させてから、切羽詰まったふりをして家まで送って欲しいと頼んでみよう。

きっと逸樹は、困っている部下の頼みなら無下に断れないはずだ。

心配させて自分の事が放っておけないようにして、ジワジワと距離を縮めていけばいい。

今まで何人もの男を虜にしてきた女としての自信が円にはある。

きっとうまくいく。

妻がいようが、関係ない。

妻より若くて美人な女に目の前で迫られたら、逸樹だってただの男になるはずだ。




電車を待ちながら、逸樹はスーツのポケットからスマホを取り出した。

上司というのもラクじゃない。

円の話を聞いていたせいで、いつもより帰りが遅くなってしまった。

遅くなると連絡もしていないので、きっと紫恵が心配しているだろう。

少し遅くなったけどこれから帰ると紫恵にメールを送り、逸樹はため息をついた。


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