女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~


 私がそう言って動こうとした時、うつろな視線を私に固定していたバカ女が、予想もしないスピードで動いた。

 そして、ダイレクトに私を両手で突き飛ばしたのだ。

「っ・・・!」

 私はバランスを失い、そのまま2段ほど下へ崩れるように落ちた後、何とか手すりを掴むことに成功して中途半端な格好で階段途中で止まった。

 カッとして上段を振り仰ぐと、奇妙な笑いを顔に貼り付けたまま、玉置が見下ろしていた。

「・・・残念。案外運動神経がいいのね、腹ボテ女のくせに」

 冷や汗が出るのを無視して、私は体勢を立て直す。


 ムカついていた。

 この・・・このバカ女、私の妊娠を知った上で階段で突き飛ばしやがったあああああ~!!!

 もう冗談では済まされない。素晴らしい反射神経で無事だっただけで、落ちてお腹でも打っていたら取り返しのつかないことになっていただろう。

 ・・・・このアマ!!

「イカレたバカ女!」

 つい、暴言が私の唇から出た。

 私は瞬発的に大地を蹴って上段まで駆け上り、スナップをきかせて玉置の頬を平手でぶっ叩いた。

 バシンと結構な音がして玉置の小さな細い体が後ろによろけ、踊り場の壁にぶつかる。

 彼女は小さく悲鳴をあげて、手で頬を押さえた。柔らかいパーマの前髪の下でギラギラと光る目を私にむけて、玉置が低く叫んだ。

「―――――私に・・・私に手をあげたわね、この腹ボテ女!お前なんか落ちて死んじまえばよかったのよ!!」

 私は無表情になってもう一歩近づき、今度は左頬を平手打ちした。


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