女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
「あんなになびかない人を手に入れるなんて、見かけによらず策略家なのかしら?」
その言葉が耳に入った瞬間、私は笑顔を続ける努力を放棄した。
何だ、この女。失礼な。
どうして桑谷さんを手に入れる為に私が努力するって前提なのよ。そして何故初対面の人にこんなことを言われなければならないのだ。
「・・・彼に惚れられて、追いかけられて、逃げるのに疲れたから結婚の申し込みをオッケーしたんです」
私が口を開くと玉置さんは目を見開いた。
それを見て私は無邪気な笑顔を浮かべる。
「中々しつこい人ですよね、彼って」
聞きたくないだろう事が判るから、言ってやった。反応をみてやろうと。
彼女の笑顔が消えた。そしてじっと私を見る。
私はムカついていた。だから会釈をして歩き出す。
何だってんだ、あのバカ女。あー気分悪い。
「小川さん」
後ろから呼ばれて振り返るとまた玉置さんだった。笑顔が復活しているけど、その目が笑っていない。
「私は3階の文具にいるの。宜しくお願いしますね」
そして私の返事を待たずに去っていく。
桑谷さんと結婚しているのを知っていて、敢えて旧姓で呼んだのが判った。軽く腰をゆすりながら歩いていく後姿を眺める。
・・・・何だってのよ、一体。
私は何が起こっているのか知らなかった。
だけど、実際はこの時に戦いのゴングは鳴らされていたんだった。ゆっくりと確実に近づいて私を煩わせる毎日に飲み込まれることになる。