女神は夜明けに囁く~小川まり奮闘記③~
だから、今晩あたり、桑谷さんに捕まるかも、とも。
こんな時、売り場が離れてよかった、と思う。また鮮魚からじっと見詰められると鬱陶しい。彼がまだ鮮魚にいたなら、その噂はその日の内に聞いたはずだ。それがまだってことは、3階まで広がるのに時間がかかったということ。
今日は問題の2週間目だったので、私は仕事帰りに病院にいくと言ってある。産科とは言わなかった。彼は別に不思議がらずに、判った、と頷いていた。
遅番の彼と早番の私は見事に時間がずれるので、今日百貨店で出会う機会はない。なので彼が家に帰ってきた夜10時くらいに、きっと尋問にあうだろう。
俺、聞いてない、と。
そんなことをつらつら考えながらバックヤードを歩いていると、配送があったらしく地下に降りていたんだろう噂のバカ女と遭遇した。
「あら、小川さん」
私は捨てるダンボールを持ったままで足を止める。
来たか、バカ女。
「・・・玉置さん、お疲れ様です」
にっこりと微笑む。こっちだって、受付嬢をしていた時に鍛えた完璧な笑顔があるんだぞう。
玉置さんは私に近寄ってきて、微笑を浮かべた顔で言った。
「聞いたわよ、何か大変だったんですって?前のネズミの他にも色々あったとかで・・・」
やっぱり3階にも伝わったんだな、と思った。
ふわりといい香りがする。化粧品も、高いいいのを使ってるんだろうなあ~、毛穴なんて全然ないじゃん、と思いながらじっと見詰めた。
私は、はい、と頷いて、廃棄場にダンボールの束を捨てる。
実際のところ話がどれだけ大きくなっているのかは知らないが、別にいいか、知らないふりでぶりっこしましょ。