クリスマスプレゼントは王子さま
ドン、と足元の床材がわずかに弾けた。
「……流石はレン王子ですな。この程度のガスでは何の影響もありませんか」
マスクを被った長身の男がくぐもった声で言う。トレンチコートを着てサングラスを掛けてる上に、薄暗いから顔はよく見えない。
「最愛の者が傷つくのが嫌ならば、あの件から手を引くことですよ」
「なんのこと?」
「しらを切るおつもりですか? あなたが動いたおかげでこちらはいろいろと困ったことになりましてね……ただ、この場で“Ja”とお答えしていただければ宜しいだけですよ、さあ」
カチリ、となにかを操作する音が聞こえた。
「ここは暗いですからねえ。さっきは床に着弾しましたが、今度はどこに当たるかわかりませんよ? さて……あなたにか、それとも彼女の足か……」
アベルさんが出したライトの光の中で、黒光りする銃口がこちらを向くのを見れば。自然と足がすくみ体が震えた。
「腕か……ああ、お腹でも運が良ければ命は助かるかもしれませんねえ」
ふふ、と薄笑いを浮かべてるらしい男は意味不明な言葉を続けた。
「もっとも……あなたには今まで通りにもっと孤独でいてもらわねば。あなたに家族など似合わない……ですから、この女は遅かれ早かれ消させていただきますよ。あなたに愛など不要ですから」