ヘタレな野獣
それに・・・
「私の気のせいかも知れないんだけどさ?
あいつ、素を隠してるみたいなんだ」
「・・・そりゃ、新天地で、いきなり素を見せる奴なんて居ないんじゃないの?」

岸田は軽く流す程度にそんな風に言うけど・・・

昨日、下柳に絡まれてるとこを見られてから、何ていうか、言葉尻がこう、キツいというか。


「・・・育てるんでしょ!?今からそんなんでどうすんのよ」

ヨレヨレ君が人違いだと分かって、私は彼を一人前の営業マンに育てると宣言したんだ。




二時間程、串カツ屋でくだを巻いて、翌日の仕事の事を考え、駅前で岸田と別れ、帰宅した。


とにかく今は、明日の山下部長との食事を何とか無難にやり過ごす事だけを考えたい。


帰ってお風呂に浸かって早く寝よ・・・







翌日、普段通りの仕事を終え、そろそろここを出なければ、先方との約束時間に間に合わない。

自分から言っておいて何なんだけど、やはり気乗りしない。


「田崎さん、参りましょうか・・・」


気が付けば、デスクの傍らにヨレヨレ君が立っていた。

あれから殆ど会話らしい会話はしていない。


「・・・いいです、私一人て大丈夫ですから」

鞄に私物を詰め込みながら私は彼の申し入れを断る。


「雨宮課長、田崎補佐、宜しく頼むよ」

えっ?

山田部長が私のデスクに寄ってきて、私とヨレヨレ君の肩を叩いた。

私は思わずヨレヨレ君を見ると、彼はニヤリと笑みを零した。

「聞いたよ、今回の事、しっかりとやってきてくれ!」
「えっ、ちょっと部長、聞いたって何を?」

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