俺様社長と結婚なんてお断りです!~約束までの溺愛攻防戦~
葬儀の日は、細い雨が休むことを忘れたかのようにさぁさぁと降り続いていた。

数年前に祖父が死んだ時に買ったブラックフォーマルを慌てて引っ張り出して着込んではみたが、ひどく窮屈で落ち着かない。

ひっきりなしにやってくる弔問客はみな揃って涙を浮かべながら洸に話しかけてくるけれど、どんな言葉もただの音として耳から流れ出ていくだけだった。

スクリーンの前で映画のワンシーンを
眺めているような感じで、自分が登場人物の一人だとはとても思えなかった。


両親を亡くした悲しみも、居眠り運転をしていたというドライバーへの憎しみも、何も湧いてこない。


ふと、洸が顔をあげると制服姿の羽衣子が背筋をピンとはって遺影をじっと見つめていた。



「・・・お前はわぁわぁ泣くかと思ったんだけどな」

洸は羽衣子の隣に立った。
視線の先には、笑顔の両親がいた。

去年、二人で箱根に旅行に行った時のものだ。まさか、遺影に使われるなんて思ってもいない晴れやかな顔をしている。

羽衣子がゆっくりと洸に顔を向ける。

「私は泣かないよ。今日は洸ちゃんの代わりに私がしっかりしておくって決めたから」

言葉とは裏腹に、羽衣子の目には涙が滲んでいて今にも溢れそうだった。
きつく噛み締めた唇は真っ白だ。


「だから、だからね。洸ちゃんはいっぱい泣いてきて。今日はおじさんとおばさんの事だけ考えて」

「・・うん」


必死に絞り出したような羽衣子の声はかすかに震えていた。
羽衣子の優しさが痛いほどに伝わってくる。

洸の心の奥で凍りついていた感情が溶け出し、堰を切ったように溢れ出した。


悲しいー。

悔しいー。

寂しいー。


会いたい、

会いたい、

せめてもう一度だけでいいから、会って話がしたかった。

もう一度、笑顔を見せて欲しかった。

洸は無意識のうちに羽衣子の背中に手を回すと、そのままぎゅっと抱き寄せた。
羽衣子の鼓動と自分の鼓動がぴたりと重なるのを感じる。
羽衣子の背骨が軋むほどに力をこめた。



「羽衣子」

「ん?」

「俺、店継ぐよ。お前も手伝え」

「うん。当たり前じゃない」



羽衣子の温かさにほっとして、洸はそのまま身体を預けた。
自分が抱き締めたはずなのに、なぜか洸の方が優しく包み込まれているような気がした。

洸は自分が泣いていることに、ようやく気がついた。

温かい涙が途切れることなく洸の頬をつたい、静かに流れ落ちていく。

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