最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 自分に向かって真っ直ぐ落下してくる圧倒的な恐怖の光景に、驚愕と焦燥がない交ぜになった冷たい汗がドッと噴き出す。
 立って逃げようにも、体の上の夫人が邪魔で起き上がることもできない。

 ……あぁ、もう無理だ。助からない。今度こそ死ぬ。
 目前に迫る死の運命を、私は絶望とともに受け入れるしかなかった。

「キアラ様あぁーーー!」

 凄まじい雄叫びが聞こえて、ハッとした。
 エヴルが私を助けようと、背中の重傷も顧みずに死にもの狂いの形相で走って来るのが見える。
 いけない! 来たらエヴルまで巻き添えにしてしまう!

「来ないでーー!」

 そう叫んだ瞬間、全身の歯車がいきなり全力で稼働するような、途方もない感覚に目を剥いた。

 呼吸もままならないほど強烈な力が体中を駆け巡り、目から火花が散るんじゃないかと思った瞬間、自分の中から爆発的な風が生まれた。

 ドンッと破裂するような音と風の塊りがエヴルに向かってぶつかって、直撃を受けたエヴルの体が壁に跳ね返ったボールのように宙を飛ぶ。
 エヴルに向かった風の反動で、私と夫人の体も反対側へ吹っ飛んだ。

―― ドドドド……!

 直後に岩石の群れが地面を叩き壊す勢いで直撃して、臓腑まで揺れるような激しい振動と、耳をつんざく轟音が襲いかかってくる。

 私は地面に伏せながら両手で頭を抱えて、声にならない悲鳴をあげ続けた。
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