最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 化粧が剥げ落ちて、きっちりまとめた髪もほつれてしまった夫人の顔には、この村で暮らしていた少女の頃の面影があった。
 素顔を晒して本音を語る彼女の姿を、私は熱でボーッと霞む目で見上げる。

 厚化粧して、胸の大きく開いたドレスを着て、媚びた目つきで男とダンスを踊っているより、こっちの顔の方が断然生き生きしてるのに。

「精霊家に生まれた、あんたが羨ましい。庶民の私は努力するしかないのよ。……それが悪い? 庶民が努力して上を目指しちゃ悪い? なりふり構わず頂点を目指しちゃ悪いの?」

 自分の言葉にどんどん興奮してきたのか、語気が荒くなる。
 私に詰め寄り、怒りの眼差しを向ける彼女を見ながら私はクスッと笑った。

「……なにがおかしいのよ!? バカにしてるの!?」

 夫人は目を三角にして怒鳴ったけど、私は逆におかしくてたまらない。
 精霊家に生まれた私が羨ましい? 私が手に入れる物が羨ましい?

 精霊家に生まれたせいで、望みもしない結婚を強いられて、とても人には言えない秘密を知って、神話の世界まで体感してしまった私にとって、夫人のセリフは悪い冗談にしか思えない。

 でも、きっとそうなんだろう。
 誰かにとっては無意味で、捨ててしまいたいようなことなのに、別の誰かにとっては喉から手が出るほどに価値がある。

 それが世界の現実なんだろう。
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