最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 私をじっと見つめてくれる、黒曜石色の瞳。
 私を好きだと告げてくれる、唇の形。
 あの艶やかな漆黒の髪を、願わくばもう一度、私の風で靡かせたい。
 愛しいエヴルに、心からの笑顔と愛の言葉を返したい。

 ……身を引くべきだと、思っていた。
 私はエヴルの隣に立つべき存在ではないと思っていた。

 風の精霊ジン様は、己の望むがまま世界の枠を飛び越えて誇り高い風になったのに、私は王室という異世界を前にして委縮し、卑屈になって尻込みした。

 いまなら迷わないのに。いまなら、心から笑ってエヴルの隣に立てるのに。
 もうそれは、叶わない……。

 薄れていく意識の中、自分の両頬が涙で濡れていることを感じながら、私はひたすらエヴルの笑顔と言葉を思い出していた。

『このエヴルが、ずっとあなた様のお側におります』

 エヴル、あなたは最初からそう言ってくれていた。
 それが決して夢物語ではなく、望めば本当に叶うのだと悟った途端に、私たちはもう二度と会えない。
 その皮肉もまた、世界の現実。

 さようならエヴル、さようなら。さようなら……。
 それでも最後に、あなたを守れたことが……私、の、誇り……よ……。
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