最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 私は涙でビショ濡れの頬を手でゴシゴシ拭いて、震える唇を懸命に緩めて、笑顔を作った。

「あたし達は親友よ。もちろん、ずっとずっとこれからも一緒だからね!」
「……」

 涙で詰まりながら言った言葉を、ノーム様はじっと聞いていた。
 私には計り知れない万感の思いの籠った目から、透明な涙がポロリと零れる。
 そしてノーム様は、とてもとても素敵な笑顔で笑った。

「ええ。わたしたちはずっとずっと一緒です」

「キアラ、エヴルよ。お前たちは我が誇り。そして永遠の友」

 その言葉を最後に、ふたりの姿は音もなく忽然と消え去った。
 いままでそこにいたのはまるで幻のように、影も形も、なにも感じられない。

「イフリート様!? ノーム様!? ……返事してよ! イルフォ! テーラぁ!」

 親からはぐれた子どものように叫びながら部屋の中を探し回って、結局それは無駄なことだと思い知る。
 そして私は両手で顔を覆って、思うさま大声で泣いた。

「やっぱり嫌だ! こんなのは嫌!」
「キアラ様」

 泣きじゃくる私を、エヴルが抱きしめる。
 波打つ背中を撫でさすってくれる手の優しさとは裏腹に、彼は力強い声で諭した。

「泣いてはなりません。彼らはずっと私たちを見守ってくださっているのですから」

 ……ああ、そうだ。たしかに言っていた。
 ずっとずっと見守っていることを忘れないでくれと。
 私たちは繋がっているのだと。
 だから……悲しむことはないのだと。
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