最悪な政略結婚を押しつけられましたが、漆黒の騎士と全力で駆け落ち中!
 吹き荒れていた風はいつの間にか止んで、さっきまでの騒動が嘘のようにシンと静まり返っている。

 地面に倒れている衛兵たちも、ティボー様も、オルテンシア夫人も白目を剥いて、気を失ってしまっていた。

 私の手足から徐々に力が抜けて、腰が抜けそうになる。
 なんだか頭がクラクラして、体がフラフラして、周りの景色がグルグルして……。

「キアラ様!」

 いまにも倒れそう、と思った時にはもう、私の体はエヴルにしっかりと抱きかかえられていた。

「キアラ様! お気をたしかに!」

 空と、庭の木々と、エヴルの必死の形相が視界の中で不規則に回転している。

 ああ、眩暈がする。なんだか目の前が暗くなって、意識がふぅっと、途切れていく……。

「キアラ様! キアラ様ー!」

「イフリート、このままではいけません。キアラさんとエヴルさんを、モネグロスの神殿へおつれしなくてはいけないとおもいます」

「人間を神の元へ運ぶと言うのか? ノームよ」

「はい。こうなってしまったいじょう、それしかほうほうがないです」

 イフリート? ノーム? モネグロス?
 それは全部、建国神話の神や精霊たちの名前じゃないの?

 しかも私を、神の元に連れて行く?
 なにそれ。私が天に召されるっていうこと? そんな、冗談じゃないわ。

 私はこんな所で、この状況で、天寿を全うなんてしてる場合じゃないんだから。
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