プリズム!
だが…。


『ダメ、だよ…。来ないで…』


思いも寄らない言葉が返って来て、再び雅耶は足を止めた。

「…何でだよ、夏樹…?」

その一言に思いのほかショックを受けていた雅耶だったが、再び思い直すと、ゆっくり歩き出す。

すると、再び夏樹の声が聞こえて来た。


『…何も、あるワケないでしょ?…気にしすぎだよ…』


先程よりは、幾分か明るく元気そうな声色だった。

(でも、無理してるのミエミエなんだよ…)

だが、夏樹は平静を装って話を続ける。

『ただ…懐かしさに浸って静かなトコに移動しただけなんだ。その内戻るよ。だから…気にしないで…』

語尾が小さくなっていく。

「まぁ…何もないなら、それが一番なんだけどさ。でも、それなら…せめて今何処にいるか位は教えてくれてもいいだろ?」

『………』

「…夏樹?」


僅かな時間ではあるが、無言の状態が続く。

そして、再び電話の向こうから聞こえてきた夏樹の声は、小さく掠れて震えていた。

『ごめん…。少し…一人にしておいて…』

「…夏樹…」


今にも泣きそうな声だった。

いや、もう既に泣いているのかも知れない。

何があったのかは分からない。

実際、何もなかったのかも知れない。

でも今、夏樹の気持ちが沈んでいることだけは判る。
< 139 / 246 >

この作品をシェア

pagetop