プリズム!
相変わらず声を押し殺して泣いている夏樹に。

その必死に堪えるように震えている小さな肩を想像して、そして聞こえてくるその微かな息遣いに胸が痛んだ。



夏樹は声を殺して泣く。

それを知ったのは、彼女がまだ『冬樹』であった時だった。

もともと、小さな頃の夏樹は泣き虫だった。

いや…泣き虫というよりは、いつだって感情表現が豊かだったのだ。

楽しい時には表情豊かにコロコロと笑い、悲しい時には涙を流す。

それは分かりやすい程に、素直に。


だが、八年振りに会った『冬樹』は別人のようであった。

基本は無表情で、何事にも動じず、いつも何処か冷めた表情をしている。

だがそれは、あいつなりの本来の自分を押し隠す常套(じょうとう)手段なのだということに気が付いた。

それは夏樹が『冬樹』である為の、ある種の防衛本能から生まれたものだったのだ。

笑顔は勿論、人前で涙を流す事などなかったであろう『冬樹』。

だが、自分に心を開いてくれた後、あいつは俺の前で何度か涙を見せた。


だが、それは昔のあいつからは想像もつかない程に静かなものだった。

表情はそのままに、大きな瞳から音もなく涙が零れ落ちていくのだ。

勿論、子どもの頃と同じ泣き方である筈がないとは思う。

だが、あいつの…夏樹の泣き方は、何処か寂しく切なさに満ちたものだった。

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