プリズム!
ザァザァと揺れる木々の音が静まってきた頃、夏樹はそっと目を開いた。

すると、いつの間に現れたのだろうか。目の前に人が立っていた。

俯いているので、視界にはその人物の足元だけが見えている状態だ。

「……っ…?」

夏樹は驚きの余り、涙に濡れたままの顔を上げる。

すると、そこにいたのは…。


「……まさや…」


全速力で走って来たのか、雅耶は息を切らせてそこに立っていた。

「どうして…」

泣き顔を(さら)していることも忘れて、夏樹は瞳を大きく見開いたまま雅耶を見つめた。

雅耶は真剣な表情のまま、目の前に立って自分を見下ろしている。

そうして、ゆっくりと息を吐くと言った。


「こんな所で、一人で泣いてるなよ」



「…雅耶…」

途端に夏樹は顔を歪めると、再び俯いて涙を零した。

「どうしたんだよ…夏樹?いったい何があったんだ?」

優しい雅耶の声が頭上から聞こえてくる。

それだけで、また胸が苦しくなって痛みが増して来るようだった。

「……っ…」

「何処か、痛めたのか…?」

こちらを気遣ってくれる雅耶の言葉に、夏樹は俯きながらも首を左右に振った。
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