プリズム!
『実は、俺は八年前から気付いていたんだ』

そう明るく言われた時、夏樹は衝撃が走ったのを覚えている。


でも、身を偽っているという事実を知りながらも、そんな自分を優しく見守っていてくれた直純には、本当に感謝してもしきれない。

そして『ROCO』は、直純が作ってくれた自分の居場所であり、自分が自分らしくいられる大切な場所なのだ。


お店の前まで来ると、夏樹は足を止めて小さく深呼吸をした。

(そう言えば、この制服で来るのって初めてだ。変じゃ…ないかな…?)

ガラスの扉に写る自分の姿を見詰めながら少しだけ不安になる。

この格好で電車まで乗って来たのだから、もう今更なのだけれど。




その頃、店内では…。


直純がテーブル席からグラスを下げて来ると、店の前に人影が見えた。

客かなと思って構えていたのだが、何故か扉の前で立ち止まっているようだ。

(…入りづらいのかな?迷ってる…?)

気になってよく見てみると、それは可愛らしい制服に身を包んだ可愛い女の子だった。

直純は、それが誰だか判るとクスッ…と笑った。


「…どうした?直純。思い出し笑いか?」


カウンター越しに、仁志が怪訝(けげん)そうに見てくる。

柳仁志(やなぎ ひとし)は、直純の親友であり、一緒にこの店を経営している大事なパートナーだ。

トレードマークの黒縁メガネを右手中指でそっと押さえると「気持ち悪いぞ」との容赦のないツッコミが返って来た。
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