健康診断の甘い罠
「採血で歩ちゃんじゃなくて、千紗の前に座ったのもだからだし。失敗したらデートしてって言ったのもまあ、わりと本気だったよ。ボールペン忘れたのもわざと。歩ちゃんじゃなくて、千紗が追いかけてきてくれる気がしてね」
そう言われて驚いて目を見開く私の顔に、目を細めた和弥くんの顔が近付いてくる。
「罠は何重にも仕掛けとかないとね。採血失敗して泣きそうだった千紗には申し訳なかったけど、俺的にはなかなかおいしい展開だったよ。ま、千紗があっさりOKしてくれたからその手は使わずに済んだけど」
え、じゃあ私ってまんまと和弥くんが仕掛けた罠にはまってるってこと?
「歩ちゃんが千紗を紹介したくなさそうで困ったけどね。高倉さんが俺の事警戒してくれてて助かったかな。信用なさすぎてちょっと傷つくけど」
至近距離で見つめられて固まる私に和弥くんが微笑む。
「こうやって一緒に過ごしてみたら本当にかわいいし面白いしで飽きないから。もう結構嵌まってるよ、俺」
そう言った和弥くんが私から離れて、ちょっとだけホッとする。