御曹司は身代わり秘書を溺愛しています
戸惑う私に全くお構いなしな強引な腕。体ごと引き寄せられ仰向けにされると、一瞬で私の上には、怜人さまのとろけそうな笑顔がある。
「あ……」
「僕のお姫様の顔をもっとよく見たくて。……今日もとても可愛いね」
彼に見下ろされるのはこうして同じベッドで眠るようになってからは毎日のこと。
だけどまだ、こんな風に子猫がじゃれあうような関係のままで……。
触れるだけのキスを唇に落とすと、怜人さまが体を起こす。
「シャワーを浴びてきますね」と笑顔を残し、寝室から出ていくすらりとした後姿を見つめた。
大好きな人と一緒にいられることがこんなに幸せだなんて、今まで知らなかった。
怜人さまの提案通り、オフィスに向かう途中にあるベーカリーのイートインスペースで、朝食を摂ることになった。
ここは通勤の途中で偶然見つけた店。
ペンキで塗っただけのシンプルな看板がヨーロッパの店舗と似ていると怜人さまが見つけて、立ち寄ったのが最初だ。
焼きたてのクロワッサンの、サクッとした歯ごたえと芳醇なバターの香りに、ついつい笑顔になってしまう。
正面に座った怜人さまは、そんな私を見つめながら、優雅な風情で紅茶を飲んでいる。