御曹司は身代わり秘書を溺愛しています


あのお弁当事件から約一週間。

あの日から金曜日の今日まで、私と怜人さまはほぼ毎日、アパートの近くの銭湯に通っている。

最初は大丈夫かなと思った怜人さまだけど、いざ銭湯へ行ってみれば、その目立つ容姿と丁寧な物腰で、あっというまに皆の人気者になってしまった。

怜人さまは怜人さまで、初めての銭湯体験に興味深々と言ったところだ。

英国では水が貴重だということもあって、節水の意識が高く、毎日シャワーで済ませるのが普通らしい。

だからあんなに豊富にお湯がある大きな大浴場には、あまり馴染みがないようだった。

初日に親切な常連のおじさんたちから、きちんと体を洗ってから湯船に入るなど銭湯での作法を教わり、その言いつけどおりそつなくこなして周囲に好感をもたれている上、『イケメンの外国人が銭湯に来るらしい』と商店街でちょっとした噂になっているらしい。

オフィスから三十分ほどで目的地に着くと、近くの駐車場に英国製の高級車を停め、私たちは銭湯に向かった。


「出られたら待合室で待っていてくださいね。なるべく早く行くようにしますから」


私の支度がおそいのか、怜人さまに長く湯船につかる習慣がないせいか、結局いつも怜人さまを待たせてしまっている。


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