御曹司は身代わり秘書を溺愛しています

「女性は身支度に時間がかかるものです。あなたのペースで、ゆっくりでいいですよ。湯冷めするといけないから、きちんと髪は乾かしてくださいね」

そう言いながら、怜人さまがさりげなく私の手を取る。あ、と思うより早くぐいと引き寄せられ、その瞬間私のすぐ後ろを自転車がすごい勢いですり抜けていく。


「あ……ありがとうございます」

「気をつけて。だけどこの町には、本当に自転車が多いんですね」


自転車は通り過ぎたというのに、怜人さまは今も手をつないだままだ。

動揺する私にはお構いなしに、怜人さまは澄ました顔で道を急ぐ。


「怜人さま、あの……」

「次の自転車がまたいつ来るか分からない。あなたは目が離せないから、せいぜい用心しておきます」


そう言いながら、怜人さまはつないだ手に力を込めた。

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