御曹司は身代わり秘書を溺愛しています

金曜日の銭湯は平日に比べていくらか混んでいたものの、いつものように待ち時間なく入ることができた。

怜人さまに言われた通り髪を乾かしてから脱衣所の外にでると、待合室がざわざわとしていることに気づく。

どうしたんだろう、と怜人さまの姿を探すと、怜人さまも人だかりに交じってテレビのニュース中継を険しい表情で見つめている。

その背中に近づくと、私に気づいた怜人さまが取り繕うような顔で形ばかりの微笑みを浮かべる。


「何かあったんですか」


ただならぬ気配を感じた私に、怜人さまが冷静な表情で言った。


「あなたの住んでいるアパートが、火事になっています」

「えっ!?」


その言葉に一瞬呆然としたものの、すぐに正気に戻った私は、怜人さまの返事も待たずに銭湯を飛び出していた。




アパートの近くにはすでに規制線が張られ、一般の人は近づけないようになっている。

ロープをくぐって中に入ろうとした私を、誰かに背後から強く引き止められる。振り向くと、怜人さまだった。



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