素敵な夜はあなたと・・・

 茜は優しかった優也の笑顔ばかりを思い出していたが、あれは全て偽物の笑顔だと思い知ってしまった。そんな優也とこれまで同様の生活が出来るはずがない。

 優也は美佐との結婚を望んでいるのだから、茜はその娘になるのだから邪魔な存在だと分かる。

 祖父に命令されて仕方なく受けた結婚だったけれど、楽しく生活が出来ていると思っていたのは自分だけだと分かり悲しくて涙が止まらなかった。

 だけど、もう、ここにはいられないと分かると茜は携帯電話を取り出して電話を掛けていた。



「お祖父ちゃん、話があるの。今すぐに。車を寄越して。」

「何かあったのか?」

「大事な話しなの。今すぐ車を寄越さないなら歩いてそっちへ行くからね!」

「分かった。直ぐに車を回すからマンションで待っていなさい。」


 舞阪商事(株)の会長ですら茜にはどうやら弱いようだ。茜のただならぬ声に会長は慌てて迎えの車を出した。

 それからあっという間に迎えの車がやって来ると会長宅へと車を走らせた。以前は美佐らと同居していた会長だったが、美佐が結婚して数年後に会長は家を出てしまい自分専用の住宅を建てた。こじんまりとした老後の為の家だと言うその建物は平屋建ての家で会長宅とは思えない程に小さな普通の家だった。


「いったいどうしたと言うんだ、こんな時間に。まずは上がりなさい。」


 会長は涙目の茜を見ると直ぐに家の中へと案内しリビングへと連れて行った。茜は初めて上がる祖父の家に戸惑いはあったが、まるで祖母が居た時の様な懐かしい温かい家の様で、その温かさに気持ちが緩んでしまうと涙が溢れ流れて来た。


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