素敵な夜はあなたと・・・
「どこ行く気?!!」
「危ないだろ!!」
優也は慌てて路肩へと車を停めると茜のあまりにも乱暴な振る舞いに怒鳴っていた。
「事故に遭ったらどうするつもりだ!」
「どこへ行くつもりなの?!」
優也は無言のままハンドルを持つと発進しようとした。すると、茜はシートベルトを外し車から飛び出そうとした。そんな茜を見て急いでドアのロックをかけた優也は茜の腕を掴んだ。
茜は優也の腕を振り払おうと必死に抵抗するも優也の力には到底勝てない。初めて掴まれたその腕の痛みに、この大きな手は母親の美佐を抱きしめている手だと思うと、これまで落ち着いて居られた感情が乱れてしまっていた。
「帰るの! 家へ帰して!」
「茜の家は俺の家だ! 何故マンションを出たんだ?!」
掴まれる腕の痛みと美佐を思うその心が茜を余計に惨めにさせた。
--自分の母親を想っている夫と一緒に暮らせって言うのは無理な事だって分からないんだろうね、この人は。そんなにお母さんが好きならお母さんと結婚すればいいのに。
茜は、そう言いたくても祖父の顔を思い浮かべるとそんなセリフが言えなくなる。政略結婚と理解して結婚生活に望んだものの実情は夫と母親の不倫があると思うと、今の茜にはそれを乗り越えられるほどの精神は持ち合わせていなかった。