猫の湯~きみと離れていなければ~
「もしもし、…うん、陽向と一緒にいるけど」
通話中、陽向はわたしを見ながら笑いはじめた。
わたしもその意味が分かっているけど、ママにばれないよう笑いをこらえるのをがんばってみた。
「うん、分かった。…はーい、じゃあね」
「本屋は2階か3階にあったはず」
ママからの電話の内容を伝える前に陽向が笑いながら答えをだしてくれた。
「鈴母さんの声でかすぎだし。ここまで丸聞こえ」
「本当に恥ずかしいんだから。『ママの好きそうなガーデニングの本を買ってきて』って曖昧すぎるよね」
「飽き性の鈴母さんらしいよなぁ」
さすが陽向。
わたしも今同じことを考えていた。
すでに引っ越しの片付けが飽きてきて、庭の改装に移行しようとしているんだと思う。
「じゃ、さっさと食って本屋探そうぜ」
「うん、いただきます」
うなずきながら、陽向が買ってくれたハンバーガーを手にとると、いつものようにパンをあけた。
昔からどうしてもピクルスが苦手で、ハンバーガーを食べる時は必ず先に取るようにしているから。
…あれ? これピクルスがはいってない。
店員さんの入れ忘れって珍しい
これが今日はじめてのラッキーかもしれない。
こんな些細なことでも、黒猫からの呪縛から解き放された気がしてきた。