猫の湯~きみと離れていなければ~
「本屋は…、2階だなっ。鈴、ほら」
案内掲示版を調べた陽向はひょいっとエスカレーターに飛び乗ると、ステップに足を乗せるタイミングをとっているわたしの目の前に手を差し出した。
「え? 」
「せーのっ」
「きゃあ! 」
戸惑うわたしを待つこともせず、陽向はわたしの手をとるとグイッと力強く引き寄せた。
「あいかわらずエスカレーターに乗るの苦手だな 」
「…覚えてたの?」
子供のとき、タイミングよく乗れないわたしの手をいつも陽向が引っ張ってくれていた。
それが当たり前になっていてなんとも思ってもいなかったのに。
なのに今は、つないでいる手を見たとたんに、一気に身体中が熱くなりはじめた。
そしてニカッと笑っている陽向の笑顔に胸がキュンとしめつけられる。
こんなことをされたら気持ちが抑えられなくなる。
もっと苦しくなるだけなのに。
そんなのは、…嫌。