あの日ぼくらが信じた物
「立てカマド?」


 ぼくは聞いた事も無いその言葉を、おうむ返しに尋ねていた。


「いやっバレましたか」


 そう言いながらも父は手を止めずに動かし続ける。父に渡す筈のマグカップを持って、手持ち無沙汰な感じに立ち尽くしていたみっちゃんパパに気付いた父は、


「ワザワザすみません。よし、じゃあ折角ですから頂きますか」


 そう言って手を止めた。


「しかしお見事なお手並みですね。私じゃとてもこうは行きません」


「いやいや、鈴木さんこそ。正直あんなに手際良くやられるとは思いませんでしたよ」


 オヤジ2人は互いの腕を誉め合っているように見えて、その実対抗心剥き出しなんだって、子供心にもヒシヒシと伝わってくる。

 みっちゃんパパはぼくらがごちそうさまと共にマグカップを返すと、小走りで自分のサイトに戻って行った。


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