あの日ぼくらが信じた物
「キャンプファイアーの本当の醍醐味は、火が収まってからの時間に有るんだよ」


 炎を見詰めながらそう言う父の顔は、それまで見たどんな表情より温和に見えたし、心なしか寂しささえ漂わせていた。

 炎が燃え盛っていた時も確かに、天を焦がす程に立ち昇る火柱が、それは見事にぼくらを照らしてくれた。

夜の暗さに慣れた目に、真昼のような明るさを見せ付け、容易には近付けない程の熱量を放射し続けた。

 でも井桁が崩れて山になった炭はオレンジ色に光って、これ迄程の荒々しさは無いものの、優しい温もりでぼくらを包んでくれている。


「これがな、人生なんだよ」


 父が柄にもなく真面目な顔で言った言葉は、誰の演説よりも饒舌にぼくの心を打った。


「……人生か。父ちゃん」


「そうだ。解るか? あきら」


< 104 / 236 >

この作品をシェア

pagetop