あの日ぼくらが信じた物
 ぼくら父子はもう暫く、そのたおやかに流れる時間に浸って居たかったのに、母の甲高い声がせっかくの雰囲気をぶち壊した。


「さぁさぁ、タソガレてないでさっさと動きなさい?」


 母はぼくらの手にもみっちゃん家族の手にも、長めの小枝に刺したさつま芋を配る。


「はぁい! 焼き芋ターイム! 一番早く焼き上がった人には、豪華賞品をプレゼントいたしまぁす」


「よおし、負けないわよ? あきらくん!」


「ぼくのは大きいから負けちゃうかも」


 ぼくは、早く焼けてもみっちゃんに勝ちを譲るつもりだった。賞品が何かは知らなかったけど、そうすることで気持ちを届けたかったんだ。

 ……でも。

 空気の読めないうちの父が、高らかに焼き芋を突き上げた。


「おっしゃぁぁ! 俺が一番だぁぁ!」


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