あの日ぼくらが信じた物
 気が無さそうに「なんだ? あきらぁ」なんて言いながら振り返る父も、太陽をキラキラと反射させている真っ青な海と空を見て感嘆の息を漏らした。


「おお、こりゃ綺麗だ」


 山を登るので一生懸命になっていたぼくらは、足元ばかりを見ていて振り返る余裕も無かったみたいだ。


「空気がきれいだから、景色が遠くまでハッキリ見えるわね」


 湾に浮かんだ漁船の上で立ち働く漁師の姿が見える位に空気は澄み渡り、そよそよと吹く風はつかの間の清涼感をぼくらに与えてくれる。


「さ、後少しだ。頂上でお昼にしよう」


 父がそう言って歩き始めた。


「でもみっちゃん、逞しくなったね」


 ぼくが声を掛けると「それって、女の子に言う誉め言葉じゃないわね」なんて頬っぺたをぷっくり膨らませてみっちゃんは言う。


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