あの日ぼくらが信じた物
「こりゃ酷い。さっさと喰って、チャッチャと片付けよう」


 最後の夜のお楽しみにと大事にクーラーボックスで寝かされていた近江牛も、なんの事やら解らない内に咀嚼され、ただ胃の中へと収まるだけの結果となる。

折角のご馳走には悪いことをしたけれど、しかしそんな悠長には構えて居られない。

 ぼくらは飛びそうな小物を全て片付け、食卓とテントのフライシートを畳んで、母屋にもう2組づつの補強用ロープをペグでしっかり固定し、夜の風に備えた。



そして夜が来た───────



  ピンッ バサバサバサササッ



 大きな鳥が羽ばたくような音がして、ぼくらは飛び起きた。気付くと壁面がたわんで波みたいにうねっている。


「なにっ? ペグが抜けたのかっ?」



  ブチブチッ バタッ バサバタバタバタ



 哀れぼくらの城は、強い風に翻弄される鯉のぼりのようにはためいていた。


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