あの日ぼくらが信じた物
「ううん、違うの。でもあきらくんの腕……」


 みっちゃんがふるふると震える指で指し示すそこには、日本の倍はあるだろう巨大な蚊がたかっている。


「うわっ、うわっ! こんちくしょう、足にも首筋にも居た!」


 そして辺りを見回すぼくの目に飛び込んできたのは、その白くてすべすべした肌には似つかわしくない黒々とした蚊に血を吸われているみっちゃんだった。


「みっちゃんも、スネの所に……ほら」


「きゃぁぁぁぁぁあっ!」


 それを見て一目散に逃げ出したみっちゃんは、木の根に引っ掛かって派手に転んだ。


「だ、だ、大丈夫か?」


「何とか……でもここは駄目! すぐ戻りましょう!」


 転んだ痛みか蚊への恐怖か、みっちゃんはその大きな目に溢れんばかりの涙を溜めている。


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