あの日ぼくらが信じた物
 彼女の顔はまるで聖母のように神々しかった。でもそれに反してその溜め息の艶ナマメかしさと言ったら……。

ぼくの脳味噌は最早沸騰寸前だった。


「有り難う。あきらくんも凄く素敵……でも……」


 でも何なんだ? 興奮し過ぎたぼくは、鼻水でも出してしまっているのだろうか。


「でも……もう時間が……」


 はっとして時計をみると、もう門限を過ぎている。


「お母さん達も、もう余りうるさく言わなくなったんだけど……私との時間を一秒でも無駄にしたくないんだって……」


 そう聞いた途端、ぼくの心は罪悪感に満たされた。自分の快楽の為にみっちゃんパパやママとの貴重な時間を奪ってしまったのだ。

折角普段通りに接して病気のことを忘れさせてあげる筈が、余計色濃く思い起こさせてしまうなんて、なんてぼくは自分勝手なのだろう。

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