あの日ぼくらが信じた物
 ぼくは割りと三枚目で、人から笑われるのは大して苦でもなかったから、実際もう何とも思っていなかったし、そんなことより鈴木さんとこうして話せたのが嬉しくて……。


「ほんとに? ありがとう、あきらくん」


 【あきらくん】


  【あきらくん】


   【あきらくん】


 彼女の唇からこぼれたその名前はぼくの耳から脳味噌に入り、グシャグシャに頭蓋骨内をかき回した後、身体中のくすぐったいところを全部刺激して……。

口に戻って出てきた。


「あ、あきらくん?」


 そのまま彼女に返した声は、すっとんきょうに裏返る。


「ご近所でしょ? 固いことは言いっこなし! わたしのことは『みっちゃん』って呼んでねっ」


 今まで見たことも無いような満面の笑みを向けてくる彼女は、太陽のように輝いている。ぼくはその顔をまともに見続けることが出来なかった。


< 16 / 236 >

この作品をシェア

pagetop