あの日ぼくらが信じた物
「いらっしゃい、あきらくんっ」


 玄関を上がるとみっちゃんがフカフカのスリッパを出してくれた。うちのビニールスリッパとは大違いだ。


「まぁ、外観も素敵ならお部屋も素晴らしいわねぇ! これ、つまらない物ですけど」

「まぁ、そんな気を遣って貰ったら悪いわよぉ」


 母はこれでも奮発して、高い方の和菓子屋から手土産を買って来ていた。あの包みは何度か見たことが有る。


「こちらに座ってらしてね」


 案内された応接間からは台所、いやキッチンの様子が少し窺える。みっちゃんのお母さんはそっとティーセットをしまって、日本茶の道具が入ったケースを棚の上から降ろしていた。

母ちゃん。そっちのソファーからは見えないかも知れないけど、和菓子は大失敗だったよ!


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