あの日ぼくらが信じた物
「丁度お茶菓子切らしてて、助かったわぁ? 頂いたのを早速で悪いんだけど、お出ししちゃっていいかしら」


 みっちゃんのお母さん、貴女はナンテ出来たお人なんだ!

ぼくは幼いながらも、そんな大人の気遣いにエラク感動したのを覚えている。


「勿論どうぞ。そこの和菓子は結構おいしいのよ?」


 母は今何が行われていたのかも知らず、のほほんと部屋の中を見回していた。当時はとても高価だったオーディオシステムが部屋の隅に置いてあり、邪魔にならない音量でクラシックを流している。

何から何まで生活の違いを見せ付けられたぼくは、言いようの無い居心地の悪さを感じていた。


「さ、どうぞ」


 上品な器に然り気無く載せられた和菓子は我が家で食すそれよりも、数倍美味しそうに見えた。出された煎茶もナンテ甘くて濃厚なんだろう!


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