あの日ぼくらが信じた物
 少し間があいたものの、みっちゃんもぼくの名前を呼んでくれた。


「みっちゃん……」


「あきらくん……」


「みっちゃん」


「あきらくん」


 ぼくらは互いの名前を呼び合うだけで、一向にその先へ進めない。

ここは男のぼくが何とかするべきだ。

そう思い立ったぼくは、勇気を振り絞って口を開いた。


「みっちゃんぼくさ、女子と話すの格好悪いとか思っちゃってて……今まで冷たくしてゴメン」


「あ、あきらくん……あ……」


 ぼくが一気に吐き出したそれは真実とは少し違っていたけど、謝りたいと思っていた気持ちは素直に口に出来たと思う。

するとみっちゃんは堰セキを切ったように泣き出した。流れる涙も鼻水もそのままに。

普段は子供らしくない上品さの有る彼女が、ぼくに初めてみせたグシャグシャの顔だった。


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