あの日ぼくらが信じた物
「なぁに? あきら君。どうしたの?」


 中尊寺先生はぼくに向かっていぶかしげなまな差しを向けてきた。でも4年生にもなったぼくを、名前で呼ぶのはどうかしてると思う。


「いやっ、ほらっ、あそこのカラスが喋ったんです」


 そんなことより今はカラスだ。あれは明らかにぼくへ向かって放たれた言葉だった。

しかし指差した先の電線には、既にカラスの姿は無い。そこにはスズメが3羽、仲良さそうに寄り添っているだけだ。


「なーに馬鹿なこと言ってんのー! カラスなんて居ないじゃないの!」


 大爆笑するクラスメイト達の笑い声に、恥ずかしさで耳が熱くなるのを感じた。


「嘘じゃないのに……」


 わざと大きな音を立てて椅子に座ると、ぼくは大袈裟に頬杖を付いた。


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