あの日ぼくらが信じた物
「そっか。なんだ、そうだわ?」


 少し背中を丸めてみっちゃんから視線を逸らしたぼくに、あろう事か近付きながら何かを言おうとしている彼女。


「バンクーバーではキスなんてただの挨拶なのよ。ママからも日本じゃやたらキスしちゃ駄目って注意されてたんだわ?」


 【ただの挨拶】


  【ただの挨拶】


   【ただの挨拶】


 またしてもみっちゃんの言葉が頭を駆け巡る。ぼくはその台詞に依って奈落の底に突き落とされていた。

 みっちゃんからしてみれば、キスなんてただの挨拶なんだ。ぼくなんてただのご近所さんでしかないし、みっちゃんちとウチじゃあ釣り合いなんか取れっこない。


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