あの日ぼくらが信じた物
「……そ、そうだよな。挨拶だよな。バンクーバーではそうでもほら、日本では挨拶はお辞儀とかだし……」


 ぼくはひとりでカチカチになってしまった後ろめたさを誤魔化すように、アタフタとどうでもいい事を口走っていた。



  チュッ



「………………っ!!!」


 それはあまりに突然だった。目に映る景色が急に明るさを増して、ぼくは言葉を無くしていた。


「好きなひとにはちゃんとキスしなきゃね」


 せり上がるように現れたみっちゃん。大写しになったおでこ。唇に残った柔らかな感触。

その時ぼくのほっぺに添えられたみっちゃんの冷たい手は、もう既にどこかへ行ってしまっている。

遠くに聞こえる電車の音。吹き抜けていく木枯らし。ぼくが作ったマーガリン邸。


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