彼の瞳に独占されています
「早かったじゃん。悪いな、強引に呼び出して」

「ほんとだよ。どうしたの?急に」


少しだけ不満げな声を出すと、淳一は微笑みを湛えているものの真面目な顔で、こんなことを言う。


「お前のこと、俺はだいたいわかってるから。ちょっと元気づけてやろうかと思ってさ」


それを聞いて、はっとした。

淳一、もしかして……昨日私と弥生ちゃんがケンカしたことを知っている?


「なんでっ!?」

「まぁとりあえず乗れ」


動揺しながら聞く私はさておき、彼はガコンと缶を捨てると、駐車場の脇に停めているあるものを指差す。

黒いボディの重厚感あるそれは……。


「えぇっ、バイク!?」


またしても驚愕して叫んでしまった。だってまさか、バイクでドライブするとは! この服装を要求してきたわけはわかったけど!

淳一は、通勤の時は楽だからとバイクを使っているけれど、ちゃんと車も持っている。走行距離十万キロを超える、少々ボロ……いや、年季の入った小型車には何度か乗せてもらったことはあるものの、これは初めて。

というか、私はバイクに乗ること自体が初だ。顔を引きつらせ、ぶんぶんと首を横に振る。


「やだ、怖い!」

「なに今さら乙女ぶってんだ。これから涼しくなるから気持ちいいぞ」


何気に失礼なことを言う彼は、私にヘルメットを渡してくる。

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