カワイイ子猫のつくり方
朝方、まだ日も昇らぬ早い時刻。


実琴は寝床からそっと起き出すと、朝霧が眠る横を足音を忍ばせながら通り抜け、何とか部屋を出た。

扉のノブを開ける際にジャンプして首に付けた鈴が思いのほか響いてしまい焦ったけれど、朝霧は眠りが深かったのか目を覚ますことはなかった。

そして一階へと降りると、昨夜の内に朝霧父が準備していた荷物の中へと潜り込み、まんまとここまでやって来たのだ。


関係者用の通用口を入り、朝霧父がエレベーターホールへと差し掛かった所で、実琴は荷物の手提げ袋から飛び出した。

「えっ?はっ?ちょっ!ミコちゃんっ?!待っ…!」

突然の出来事に後ろで朝霧父が驚きの声を上げていたが、実琴は急いで廊下の角を曲がると近場の物陰へと隠れた。

朝霧父は廊下の角まで慌てて出て来て暫くこちらをキョロキョロと見渡していたが、諦めたのか戻って行く。

(おじさん、会議だって言ってたもんね。忙しいのに悪いことしちゃったな…)

利用してしまったことに胸が痛んだけれど、これも元に戻る為だと自分を奮い立たせる。

そう、これは自分の為だけではないのだ。


(猫ちゃん、待っててね。今行くからねっ。その為には、まず病室を突き止めないと!)


この受付ロビーは人も多く、目に付きやすい。

まずは少し動きやすい所へと移動しなければ。


そこで偶然横を通ったベビーカーの荷物カゴへと実琴は瞬時に飛び乗ると、移動を開始した。
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