カワイイ子猫のつくり方
その頃、同病院内のある一室では…。


既に陽が昇り、窓から差し込む朝日が病室内の白い壁を明るく照らしている中、ベッド横に置いてある椅子へと腰掛けた女性は部屋の明るさとは対照的に暗い面持ちで小さくため息を吐いた。

見た目は40代前半といった感じの小奇麗な女性であったが、その表情からは心なしか疲れた様子が見て取れる。

彼女がこの場所に通い始めて今日で三日目。

この病院に救急車で運ばれて以降、一向に目を覚まさないでいる娘を心配して、朝早くから顔を出しては夕方家に帰って行くという、病院主体の日々を送っていた。


そう、彼女は実琴の母親である。

そして、彼女の目前のベッドに横たわっている人物。それが実琴だった。


特に外傷も何もなく、まるでただ眠っているかのような穏やかなその顔。

だが、腕には栄養補給の為の点滴の管が付けられていて、それだけでどこか痛々しい。

今まで殆ど病気など無縁で元気だけが取り柄だった娘が、まさかこんな状態になるなどとは家族の誰もが夢にも思わなかったというのが正直なところだった。

それも、学校から聞いた話では校内に植えられた木に登り、そこから落ちたというのだから呆れたを通り越して、ただただ恥ずかしさしかない。

それでも、木に登った経緯が子猫を助ける為だったと聞き、困っているものを放って置けない、心根の優しい『あの子らしい』と納得するしかなかった。
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